第三章 第一話 周りからは見えない病気

私の他界した母は医者だった

母親としては失格だったが
社会的にはとても偉大な人だった


変な咳をしていると周りに言われて
試しにレントゲンを撮って癌が発覚

肺癌の中でも腺癌というタイプ
ステージIIIの末期癌だった

腫瘍の大きさから見て
あと3ヶ月の命と宣告をされた

いわゆる「医者の不養生」
全くもって笑えない話だった


見た目にはとても元気だが
唯一おかしいところは咳だけ

怪我で車椅子の人と並んでも
周りは車椅子の人を気遣うだろう

けれど 重症なのは母の方だ


そう 眼に見えることだけで
病気を判断しては絶対にいけない

そして 決して自分は大丈夫だと
過信してはいけない


わかった時には手遅れ
ということがたくさんあるからだ



私の左目はほとんど見えていない

両目でものを見た時の
左側の視界を少し補助するとしても

左目だけでものを見ることはできない

そこに何かがあることはわかる
見えるがそれが何かはわからない

けれど 実際は自分で言わない限り
見えていないなんて 誰も気が付かない



ある時 子供のお母さん達の間で
目の病気の話が出た時のこと

「うちの主人も緑内障だよ」
なんて笑って言っている人を見て

「ちゃんと目薬しないとだね」
とつい口走ってしまったけど

ついその方と一線を引いてしまった


悪気がないこともわかるし
何気ない話題の返しをしただけ

ということもよくわかっている


まだそんなに重症なわけではなく
視界がほんの少しだけ欠けている

もしくはまだ眼圧だけの問題で
欠けてないのかもしれない

けれど 笑って話していることに
ものすごく違和感を抱いてしまったのだ



本当に目が見えているのかなんて
当の本人にしかわからない

そして 眼に障害があったり
視界欠損があるなど


たとえ同じ病名だとしても
その重度は人それぞれ

そして大概は口で説明しないと
その病気の重大性も伝わらない

それがどの程度で
その人にとってどのくらい大変かも



私が見えないからと言って
同情して欲しいわけではない

ちゃんと病気を受け止めて
うまく共存できるようになるまでは

治らない病気は ただ
そっとしておいてほしいと思ったり


と言ったところでも
いつになっても一喜一憂してしまう



励ましてくれるのも嬉しいが
逆に再起不能になる時もある

元気な状態で前を向けているならいいが
足元しか見えない時は動けなくなる

そんな時は周期的にやってくる



「最近目の調子はどう?」

「ちょっと調子が悪いんだよね」

「ホントだね、なんか目が変かも」

なんて言われただけで落ち込んで
しばらく顔を合わせたくなくなったり


少し気遣って欲しいな
とちょっと時々欲張りになる



見えないことをあからさまにすると
家族が気にする

そこで見えないことを控えると
見えるのに何でやらないとなる


次男はやっと最近になって
私が殆ど左眼が見えないことを知った

働かないでゴロゴロしている
だらしない親だと思っていたらしい

確かに最近は外勤をしていないから
見えて働いていないと思うのは自然だ



そして 私は目の病気のほかに
「光線過敏症」も患っている

太陽光線を浴びると反応して
皮膚が膨らんでくる

そのため 外出に制限がある


ところが

光線過敏も一見して病気なのか
日焼けを避けた重装備なのか

何もわからない人からすれば
少し意識高い系の人に見えるだけだ


最近ではフェイスマスクまであり
男性でも日傘を差しているし

コロナ以降はマスクをしていても
特に何を言われるわけではないが

その当時は 帽子とマスク
緑内障のためのサングラス

この組合せは「芸能人」と思われて
わざわざ顔を覗かれたこともあった


そう 光線過敏も
自分から申告しなければ分からない病気

重症なのか軽症なのか
わがままなのか

説明しないといけないところが面倒だ

けれど外に出れないのは結構深刻だ



歳をとると体も古くなって傷む
そしてそれが「病」となって出てくる

完治してくれる病気もあれば 
持病となって続くものもある

結局のところ
うまく付き合えるようになればいい


けれど 頑張りたい時に
若いうちから出てこられると辛い

自分ばかり何故って思ってしまうし
周りがよく見えてしまう

人の価値観なんて違うんだし
人は死ぬ時プラマイゼロっていうし

いいことが別にあるからって思いたい


見えない病気だからこそ
周りから悪気のない言葉が降りかかる

さらに親や兄弟の言葉はナイフとなる
包み隠さない言葉が心に刺さる

辛い時は辛いところから避難
自分が元気になったら向き合えばいい

自分の気持ちが落ち着くところで
態勢を整えて一旦冬眠

歩き出す準備ができるまで
一つずつだ

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