吾妻小富士|私雨 その2

数年前から

トレッキングに興味を持ち始めた

元々 喘息持ちだった私にとって
親の趣味で連れて行かれた登山は
拷問以外の何物でもなかった

そして 太陽にあたれない私にとって
平地より空に近く 遮るもののない山は
ただの自殺行為だと 見向きもしなかった


けれど
木漏れ日の揺れる林道の散策
木道の敷かれた湿地の探索

「達成すること」より 
「見つける喜び」がたのしかった

太陽の下であっても
たとえフル装備をしてでも
コロナ前で「変質者?」と視線を浴びても

それは 子供と出かける楽しみの一つだった

その代わり 太陽を浴びてしまったら
二、三日は皮膚の腫れが引くまで外出禁止

そんな覚悟での 強行突破の日々だった


でも今は 思う
どこにでも 出かけられるはずだと



福島盆地から見える 小さな富士山
吾妻小富士 別名「浄土平」

三月に福島を訪れたときには
その裾野に「雪うさぎ」の形が見えた

今は五月 
春の訪れを伝え 種まきの季節を知らせる
「種まきうさぎ」とも呼ばれる 雪うさぎ

まだ会えるかと期待していたけれど
雪はすっかり消え 
浄土平の火口が 街からもくっきりと見えた

あのお釜の エッジのラインに誘われて

「行ってみたい」 
そう思ってしまったのだ



高湯温泉や微温湯(ぬるゆ)温泉を横目に
浄土平の登山口へと向かった


ゴールデンウィークとあって
駐車場は県内外の車で溢れかえっていた


車を降りて 火口まで続く階段を淡々と進む

歳のせいだろうか
同じインターバルで続く階段は
自分の歩幅と合わず すぐに疲れがくる

それでも ただひたすら
階段を登り詰めた


下から見上げていた火口を 目の当たりにする
お釜の縁の狭さに 思わず息を呑んだ

風は強く ただでさえ寒いのに
吹き付ける突風が さらに体温を奪っていく


道の狭さと 意外なほどの急勾配
体を持っていかれそうな風

そして 目のバランスの悪さが
足元の不安をさらに助長させる


けれど まわりを見ると 
誰もが迷いなく 周回を目指して歩き出している

「このまま降りてしまっては もったいない」
そう自分に言い聞かせ
恐る恐る 一歩、また一歩と踏み出した


「時計回りで」と案内されていた意味を
途中で痛感することになる

足場の悪い 険しい急勾配

ここが登りでよかった 
下りでは足が竦んでいただろう
風も強く 本当に怖かった

けれど そこを過ぎれば
緩やかな遊歩道のような道だった


少し調子に乗ってしまった
太陽に近い場所で 帽子も被らずに歩いていたら
だんだん 目の上がモゾモゾしてくる

やはり 太陽を間近に浴びたせいで
腫れの前触れが 始まったのだ

まだ 万全ではなかった
日焼け止めとファンデーションだけでは
この光をガードしきれなかった


「これでまた悪化したら 元も子もないのに」

慌ててジャンパーのフードを深く被り
心の中で 猛反省した


それでも
岩場に力強く芽吹く 木々たち

祈りを込めて 幾重にも重ねられた石
地学的な歴史を物語る 美しい火山層

目に映るすべてが 私の足を弾ませた
どれもこれもが ワクワクしてやまないのだ


今はまだ 土色の風景だったけれど
ワタスゲが浄土平湿原を覆う姿を見てみたい

クリスタルフラワー
別名「スケルトンフラワー」と呼ばれる
サンカヨウの花も いつか見てみたい


「もっともっと」 と欲が出る



帰り道 思いがけなく水芭蕉に出会った

そんな出会いが
さらにしあわせな気持ちにさせる

浄土平湿原もいいけど
雄国沼にいきたいかも
せっかくなら 尾瀬にも行きたい

そうだ 私は湿原も好きだったんだ


「行きたい」 が次々溢れてくる



最近 自分の「好きだったこと」をよく思い出す
そして 新しい「好きなこと」がよく見つかる


自分を忘れていた かつての自分のために
今日もひとつ 「好き」を見つけられてよかった

こちらに載せきれなかった写真はInstagramに載せてます ⌘

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