突然左目が不自由になって
見たいものが見えなくなって
何をみても
よく見えなくなったあの日から
「観に行きたい」がなくなった
本当は世界中を旅したかった
けれど あの日以来
なんの興味も持てなくなった
どうせ見に行ったとしても
よく見えないだろうし
ましてや高い旅費を思うと
ただの無駄遣いのように思えた
けれど 元来私は鉄砲玉
気ままに出かけるのが大好き
だった
好奇心旺盛でなんでも知りたい
なんでもやりたい性分
だった
そんな私が
少しずつ元気になって
少しずつ始めたのが「国内旅行」
日本を知らずして
世界で何を語れるというのか!
という”こじつけ”で
少しずつ
自分の”テリトリー”を広げた
長く建築に携わっていたのだが
精密で情報量の多い建物は
今となってはあまり興味がない
見たいものが見えなくて
感動より疲労の方が大きくなる
そこで当然のように
元々好きだったランドスケープや
自然や植物になびいていった
視覚以外の”4つの感覚”も使って
観るより 感じることを求めて
出かけるようになった
そして この夏は
ずっと気にはなっていたが
長年時間がなくて行けなかった
「熊野」を探索してきた
信仰が深い人からすると
四国のお遍路さんと同じように
「よみがえりの地」を目指す
歴史的な巡礼路なのだろう
けれど 私の興味は
少し違うところから始まっている
母の闘病に付き添っていた時
テレビで流れていた
「ほんまもん」という朝ドラから
見て感じていた空気感
私の昔からのバイブルともいう
「BASARA(バサラ)」という漫画の
登場人物の「那智」や
彼の生まれた「熊野」という土地
そんな”感覚”を
もっと自分の中で味わいたくて
「熊野」という自然の聖地の
臨場感を感じてみたかったのだ
本当はきちんと計画を練って
”完全制覇”としたかったのだが
「長男の夏休みに高野山に行く」
という本題の寄り道だったし
高温多湿になる夏は避けるべし
というアドバイスも受け
長丁場の散策は避けて
熊野三山と短い散策のみとした
先日高尾山に行った時に
膝を痛めてしまったので
トレッキングポールと
クッション性のある靴も新調した
水分も多めに背負って
用意は万端
あとは体力勝負
いざ
長年憧れた「熊野古道」へ
まず向かったのが
「熊野那智大社」
大門坂の足元の駐車場から向かい
那智の滝を見て帰る散策路
散策を含めると
3時間ほどが目安のコースだ
那智山の中腹にあるので
延々と石段の上りが続く
人の倍以上
休みながら進んだ
このくらいは歩けないと
と軽めのルートを選んだのだが
面白いことに
つらいのだが
なぜか つらくない
昔から人々が歩いた道のせいか
上りの階段も強制感がない
帰りの下りでも思ったのだが
おそらく最近の石段より
一段一段が低いのだろう
昔の人の体格からすると
妥当な高さだったのかもしれない
そして 石段の両脇には
大きな杉が道案内人のように立つ
伏見稲荷神社で
並ぶ鳥居を次々くぐるような
神聖さと楽しさがある
木々のおかげで木陰ができ
木漏れ陽が次々と風景をつくる
息が上がり
駐車場までなんて無理かも
とバスに乗ることも考えたが
最後までちゃんと往復できた

ここでのメインの目的地は
どちらかというと「那智の滝」
一段の滝として日本一という
落差133mの滝は
なかなかの迫力だ
水量のせいか
整い過ぎていて
神聖なる滝といわれるのも
なんとなく分かる
今は水が少ないというので
大雨の後に来たい
という邪心が芽生えた
実は私 滝マニア
ついつい旅先で探すのは滝
整然とした滝も好きだが
秘境の滝がさらに好きだ
次に訪れた「桑の木の滝」は
あまり人の往来がなさそうなところ
これこそが熊野か
と思うほど
しっとりとした静寂の中に
時間の経過を刻む風景が広がる
もののけ姫のシシ神さまでも
出てきそうな共生の森
道中で鹿や狸などの姿を
よく見かけたのも納得できる

そうそう
こういう空気感
そして
音や匂いなど感じるすべて
私が感じたかったものだ
いろいろな種類のコケやシダ
山野草が息づいていて
小川には小さな魚もいる
そんな可愛らしい生き物たちに
いちいちワクワクしてしまう
人間
ワクワクすることは
絶対的にいいと思う
最近ワクワク急増中で
うれしい
翌日は
熊野本宮大社までの
人気のルートと言われる
発心門王子から約7km
3時間ほどのコースを歩いた
また新たなワクワクを期待したが
途中は道路だったり
整備された道だったりで
私には少し物足りず
「長めの散歩」で終わってしまった
けれど
初めに本宮への道と間違えて歩いた
発心門王子から猪鼻王子跡への道は
「熊野」らしくて
キツかったけど
楽しかった

スタンプラリーがあるようで
道中にはスタンプが置かれていた
着くたびに押している人を見ていたら
それも楽しそうに思えてきた
調べてみると
いろいろあって
「熊野古道中辺路押印帳」
というものがあり
41箇所すべてを押すと
完全踏破証明書がもらえるらしい
自分が好きなそうな
まだ見ぬ「熊野」が
まだまだたくさんありそうだ
ならば
全部を見に行くきっかけとして
スタンプを集めるのもいいかも
次に歩くなら
春か秋
もう少し体力をつけて
私は春に
制覇してみたい
ずっと空っぽだった
バケットリストが
また一つ増えた
